TIPS

技能と技術誌論文作成へのアプローチ

(その4)

実践教育訓練研究協会 副会長

辻  茂

4.論文創作マニュアル

 内容が充実し,よい素材を多く集めた論文でも,その論述の論理性,その文章としての用語,用字などの信頼性を損なっては,よい論文とは認められない。一般に技術系論文では,まず広く関係文献をよく調べ,研究テーマを掘り下げ,実験あるいは理論的に新規性のある結論を導くべく,十分な論議を展開して,読者に理解を求めることが重要である。

 さらに,論文の書き方,文章の巧拙,図・表などの有効活用も,よい論文に仕上げるための必要条件となる。また,文章にアクセントをつけ読者を引きつけるためには,演繹型か帰納型のどちらかに統一することも必要である。文章の構成には

① 問題の肯定・否定の両説をあげ,そのうちから論理的に肯定的な説を導き出す。

② 普通は自分の支持する説を後に出し,対応する説と対比させながら自論を提示する。

③ 読者の判断に待つような間接的な論述方式よりも結論をはっきり明確に示すべきである。

④ 主題となる論説を,鮮明に繰り返して論を張って主張することも重要である。

 以下,本章では,まず本誌「技能と技術」における記事としての技術系論文を書くことに焦点をしぼって,その編集に関する資料と二,三のコメントを述べることとする。

4.1 本誌論文系記事の種類とその要項

 「技能と技術」誌は,その編集方針として以下の項目を取り上げている。

① 職業能力開発施設における教育訓練の実践例を取り上げ,今日的課題についての関心を高め,現場の参考に資すること

② 諸外国の職業能力開発事情に関する情報の提供

③ 社会的要請に即応したテーマの特集

④ 伝統技能および熟練技能の紹介

⑤ 公共職業能力開発施設の社会的役割の明確化に役だつような研究,または実践事例を取り上げ,施設の活性化に資すること

⑥ 企業の職業能力開発に関する事例を取り上げ,業務の参考に資すること

 また,その記事となるコラムの主なものとして,

① 実践報告:各訓練施設における各種訓練コース開発,カリキュラム開発,訓練方法,指導法,評価法等の実践報告

② 調査報告・研究報告:社会情勢や動向を調査研究し,能力開発業務にかかわる部分の考察をした報告

③ 技術情報:技術的に新しい内容で訓練の実施に有用な情報(各種訓練の応用に生かすための)

④ 技術解説:基礎的な技術の解説

⑤ 教材開発・教材情報:各訓練コースで使用される教材開発の報告,教材に関する情報

⑥ 企業の訓練:企業の教育訓練理念,体系,訓練内容,訓練実践を紹介

⑦ 実験ノート・研究ノート:各種の試験・実験研究等で訓練に有用な報告・研究資料

⑧ 海外情報・海外技術協力:諸外国の一般情報,海外訓練施設での訓練実践,教材等の情報

⑨ ずいそう・雑感・声・短信・体験記:紀行文,所感,随筆,施設状況等各種

⑩ 伝統工芸:伝統工芸を伝承するための技能や人物を紹介

 以上がその全容を列記したものであるが,記事としてまとめるに当たっては,その内容,性格をよく吟味してコラムを決定する必要がある。

 一般に各種専門学協会誌や雑誌では,普通に掲載される記事としてのコラムの種類とその内容の定義を明確に示しているのが普通である。ここに参考として,日本機械学会誌の関係資料を紹介することとする。

① 研究論文:独創性をもった研究についての,原則として未発表のもの(8ページ以内を原則とする)

② 総合論文:一連の研究論文を要約して系統的に記述したものである。また特定の技術あるいは製品の完成に至るまでの過程および成果の解説

③ 寄書:速報的意義をもつものであって,原則として短いもの。また簡単な研究報告

④ 展望:特定の事項に関しての歴史的推移,現状,将来の見通しなど,広い視野にたち記述したもの(8ページ以内)

などの関係コラムをあげることができる。

4.2 論文アウトラインの作成とその活用

 一般に技術系論文はその性格上,その題目について何をどのような順序で書くかを決め,いわゆるそのアウトラインを作って,計画的に書き進めるのが望ましい。それは出来合いの論文の型を利用するのではなく,自分自身で,その研究内容にふさわしい形式を作ることによって自主性のあるユニークな論文とすることができる。

 アウトラインの作成に当たっては,まずその計画段階で,いろいろな面から検討を行い,十分構想を練ることが必要で,徹底的に練り上げられたストーリーができあがれば,論文としての文書の大部分ができ上がったということができる。

 次にアウトラインの作成に当たっての二,三の要点を列記すると,

① 文章中にぜひ書くべきと思う要件を重点的に列記し,その項目とその順序等の目安をつけやすくする。

② 書こうとする内容の要点となるキーワードを列記し,執筆期間中,折にふれ毎日の生活のなかで情報や資料の蒐集などの活用を図る。

③ 必要と思われる図表類を集め,あるいは新しく作成して,その内容の充実を図り完璧を期する手だてとする。

④ 列挙した要点を整理して,中心主題と関係の比較的うすいものや,問題をあまり複雑にしすぎるものを取り除く作業をする。

 以上の作業によって,目指す技術系論文のすじ書きができるはこびとなる。しかしまとまった研究論文などの場合には,必要に応じて,さらに関係資料を集めたり,参考書類を調べたりして,既発表作品はないかなどを吟味することにより,そのアウトラインが立派なものとなっていくこととなる。

 なお,ここで最も重要なことは,すでに「2.2 論文創作へのアプローチ」において述べた事項の確認のチェックである。特に,g 技術系論文における六大眼目 の事項のうち,論理性・信憑性・独創性などの検討が特に重要である。これらの作業の結果は,その論文の客観的評価の基準となるものである。

4.3 技術系文章表現上の留意事項

(1) 文体と用語

 科学技術論文の文章は原則として,文章口語体とし,「……である」とし,「……であります」となる会話口語体ではない。また「……表のごとくである」とする文語体的表現も,上記同様「……表のとおりである」とすべきである。

 次に文章のある箇所を特に強調したいときなど,よく誤って使用されることの多い文語体的表現例を二,三取り上げ,それに対応する文章口語体的表現を表5に示す。

 一般に文章は,普通,漢字ひらがなまじりとなるが,相対的にあまり漢字が多く含まれると,印象的に重く感じられるので,通常1センテンスの語数の3分の1程度が標準であるとされている。一般に漢字は約50,000字あるといわれているが,そのうち5,000字ほどが普通使われており,1,850字がいわゆる義務教育にて,読み得るように定められている。

 多岐にわたる漢字は,ややもすると書き誤りがちである。特に同音(訓)異義の[合う~遭う],[痛む~傷む~悼む]などの例のごとく,書き誤りやすい漢字が多くあるので注意する必要がある。

 普通,正式に文章を書くとき,机上に二,三の専門用語集と一般国語辞典を置いて,必要に応じて確かめるのがよいと考えられている。

(2) 漢字とひらがなの使い分け

 なるべくやさしい漢字を間違いなく使うことも,わかりやすい文章にするため大切なことである。認められた音・訓の範囲内で当用漢字を使って文章を書けば,大多数の読者に無理なく読んで理解してもらえることになる。昭和23年に決められた当用漢字もその後改定され,昭和48年に告示されている。その要旨はこれまでの制限的な性格を改め,文章を書くときの「目安」「よりどころ」程度にとどめ,慣用を尊重することとなっている。特に科学・技術・芸術などの専門分野や個人の文章表記にまで及ぼそうとするものではないとしている。表6は漢字を使わないで,いい表す言葉の典型的な例である。以前は,漢字の使用度が多いほど,教養が高いといわれていたが,現代では,先に述べたごとく,1センテンス中の約3分の1程度の漢字の量が読みやすいと考えられている。

 なお,漢字とひらがなの使い分けについて,以上のほか表7に一例を示すごとく「……言った」「銀座通り」「……終った時」「図面を見る」などの場合に漢字を使用するが,仮定的条件の「……のとき」などのようなときは,ひらがなを使用するのが普通である。

4.4 技術系論文の構成と体裁

 論文のコラムとしての記事の種類により,その文章の体裁が異なるほか,その中心主題が理論的なものか実験的手法のものかによっても,その構成が異なることは当然である。また,特に留意することはそのコラムの割り当てページ以内にきちんと収めることは必要条件である。

 次に最も一般的な場合について,各項目とその内容の記載に当たっての概要について述べる。

(1) 題目

 論文の内容を簡潔・明確に表現するもので,必要に応じて副題目を付してもよいが,略号を用いるのは避けるべきである。特に留意すべきは研究内容との整合性を損なうような誇大表現,あるいは一部結果にこだわったような表現は厳に慎むべきである。

(2) 要約

 一般に定められた字数制限があるので,その範囲内で,研究の手法やその成果を要領よくまとめる必要がある。記述する順序は本文と対応していることが重要で,その結果を整理した後に著者の考えや学説を直截に記述することが望ましい。

(3) 緒言・緒論・まえがき

 論文内容の意図する主題とその研究目的・手法など,読者にその文章を読む意義とその理解を求めるものを簡明に書く必要がある。そして,既刊の主献などで本文に関連のある参考文献や資料,歴史的な研究の背景などについても触れ,本研究の背景に触れながら,本研究の意義を主張する。

(4) 主部

 主部の構成には筋が通っていることが大切で,そのためにはすでに「4.2 論文のアウトラインの作成とその活用」で述べたが,ここではその活用が最も有効である。そして必要な事項を漏れなく順序よく書き,文章は論理的に,かつ理論的ならびに実験的な証拠や証明がなされていなければならない。また読者に理解されやすく,書き表すため,論述において,飛躍のない説明であることが肝要である。したがって,文章は,冗長,蛇足は厳に慎み,目的的であって,いわゆる一般論は極力避けなければならない。

 章・節・項などの番号付けは,本誌については1,1.1のように数字によるとされており,その内容の展開において,それぞれ a,s,d……とすることも必要に応じて採用するとよい。

 また特に実験的な研究を主とするものの場合においては,機材・器具の説明,実験・試験の方法などについても項を設けるが,数式などの展開には要を得たコメントを付して,簡略にし,冗長となるのを防ぐ必要がある。

 以上のほか,総合的には文章表現の基本として,すでに述べた前章「3.論文作成の要項」の中心となっている学術性,センテンスとパラグラフの組立てとその構築に十分な配慮をする必要があることは,言を待たない。

(5) 結論・結言・むすび

 主部の本論で論議され,データを示し,本研究の目的とする理論や実験や調査結果などより得られる推論の集約である。推論は結果から引き出すが,結果そのものが結論ではなく,本文から無理なく結論に達する過程を論理的に明らかにするように書くことが必要である。

(6) 文献・参考文献・脚注

 論文の最も重要な要素の1つは,プライオリティ(公開時期による優先権)の存在である。これは当然,新規性,独創性の評価対象となる。したがって他者を含み自分自身の知見に対しても,その出典は明確にしなければならない。

 特にこの点を不鮮明にしている論文は,時として解説記事とみなされ,その価値を喪失することがあるので注意する必要がある。

4.5 論文の最終仕上げと推敲

(1) 明晰な文章とするためのチェック

 一応書きあげた文章は当然,「3.論文作成の要項」等に基づき書かれたものと思われるが,それでも最終仕上げの段階で,なお万全を期して,総合的なチェックを行う必要がある。

 その第1の目的は論文としての全体像のバランス感覚に基づき,かつその成果を読者に正しく理解してもらうため,最も重要な作業である。

 すでに「3.4 文章表現の留意事項」でも述べたが,さらに本項では特に重要と思われる二,三の事項を追加列記し,特に推敲時用として活用されることをすすめる。

① 単文を主体に書くことにより,明解な文とする。

② なるべく主語,目的語,補語の順に書く。

③ 指示代名詞の使用をさしひかえる。

④ 主体が不明になりやすい。

⑤ 体言止めは避ける。

⑥ 二重否定はできるだけ使わない。

⑦ 多義的な言葉は,意味の明白なものに変える。

⑧ 関連する言葉は,なるべく統一する。

⑨ ……など等の省略語は最小限にする。

⑩ 内容空疎なきまり文句は使わない。例えば「前向きに検討する」など。

⑪ “……が”の使用は少なくする。

⑫ 修飾関係用語はすぐわかるように置く。

(2) 論文の推敲

 論文を書く際,研究内容,特にその成果をいかに書きあげるかに全力投球するので,全体的に読み返してみると種々の欠点が各部にあるのは避けられないことである。したがって,一般に書き終った後に必ず再度読み返す習慣をつける必要がある。しかもその論文が文献として,永久に記録に残るような学術論文の場合は特に重要な意義がある。この場合,普通二度,三度と繰り返し,ていねいに読み直し,手を加えることによって,自信の持てるよい文章となっていくこととなる。用語は「おしかつたたく」というこの推敲という故事から生まれたものといわれ,言い得て妙である。

 読み返し推敲する際のチェックポイントとしての基準として,次の各項をあげることができる。

① 全体の構想や内容のまとめ方は適当か。

② 研究成果や書きたい事項が述べ尽くされているか。

③ 文章の意味が客観的にみて読者に伝わるか。

④ 文字の使い方は正しいか,誤字や脱字はないか。

⑤ センテンスとパラグラフのバランスは大丈夫か。

⑥ 文体や用字・用語の選び方は正しいか。