実践報告

建築法規とのかかわりから見る地震と火災

― 法改正の歴史で見る地震と火災の関係 ―

東北ポリテクカレッジ 建築施工システム技術科

(東北職業能力開発大学校)    

畑中 浩

1.はじめに

 日本人の危機意識は確かに低いと言わざるを得ない。しかし,2001年のアメリカで起きた貿易センタービル倒壊のテロなどから始まり,イラク戦争など危機管理に対してだいぶ国民に再認識させる機会が多くなってきた。上記のような軍事危機,雇用などが脅かされる政治経済金融危機,犯罪の低年齢化とともに凶悪化がいわれる治安の危機,ウィルスが猛威をふるうIT危機や環境・労災危機などさまざまな危機がある。

2.地震と火災における危機意識

 そんな中で宮城県では宮城沖地震の再来という危機に直面しようとしている。そのような地震についてと,地震と密接な火災についてまとめてみた。危機意識不足とは言ったが,地震と火事については,昔から日本で『地震・雷・火事・親父』と言われ,怖いものの代名詞になっている。危機という言葉は別としても,ある程度は頭の片隅に危険というものを意識して生活しているのである。

 2001年11月27日に政府の地震調査委員会が,宮城県沖で30年以内に最大マグニチュード8.0クラスの地震が90%より大,20年以内に80%の確率で発生すると報告したのを受けて,宮城県では2002年末から盛んに各新聞紙上や各種フォーラム・大学の先生方による各種シンポジウムなどで防災について取り上げられ,県民の意識から薄れかけていた防災意識を再び喚起するような運動が各地で開催されている。そこに2003年5月26日(月)の三陸南地震の発生でさらに危機意識は高まった。そのうえに2003年7月26日(土)の1日で震度6の地震が3回も起こるという過去に例を見ない地震を経験してしまった。避難生活がいまだに続いているのである。

 建築業界も以前より法改正はもとより,災害対策の一環として「耐震診断・耐震改修のススメ」などのパンフレットを作成して,ボランティアや学校関係などと連携してその対策を急いでいるところである。地震予知に関してはある程度進んできたが,危機管理の次の段階として,地震発生時の災害を最小限にとどめようと努力すること,さらに地震が起きてからの対策を考えることが重要で,早急な対策がないと二次災害が発生する危険性がある。下の写真は防災意識を高めるために高校生が耐震診断を行ったという記事を河北新報が載せたものである。このように徐々にでも県民に危機意識をもってもらいたいものである。

 火災についても最近相次いで死傷者の出る事例が多く発生しており,そのつど火災予防条例などが改正されてはいるが,建築物の所有者の危機意識もいまだに薄く,避難訓練を行っていないことや,避難通路を平気でふさいでいたりすることから同じ災害を引き起こしている。しかし,建築的な対応も計画の面からと使用の面からの検討が多分に必要となってきている。

 そのような中で建築基準法や消防法はどのような流れで地震や火災に対応してきたのかを,ある程度振り返って事実を確認しておくことで,本当の防災対策を検討し,国民の危機管理の1つとして実行していかなければならないと考える。

3.地震と建築基準法

 危機管理において,リスクの高いものから考慮するのは常道であるが,最近の日本ではイラク問題や北朝鮮問題など地震よりリスクの高い問題が多すぎて,地震について一生懸命啓発しているにもかかわらずいまひとつ本気になれないのが実情かもしれない。しかし,日本は世界でも有数の地震国で,ユーラシアプレート,北米プレート,フィリピンプレート,太平洋プレートと4つのプレートがぶつかり合う位置にあり,2000を超す活断層を持つ国なのである。プレートを構成する地殻をリンゴやみかんなど人によってまちまちの表現で解説しているが,マグマの上部の層で,薄い一部分であることを言っている。大部分を構成するマグマが動いているのだから,プレートもそれに伴って動くのは当たり前のことである。そのプレートがぶつかり合って起こす地震を予知するのは並大抵のことではないのである。地震は日本に住むうえでは避けて通れない問題である。しかし,理解しにくいということも妨げになっているのかもしれない。地震に関しての表現にしても,震度がいくつとかマグニチュードがいくらだとか,1000ガルを超えたとか,カインがいくつとか,言い表し方がいっぱいあるので混乱してしまうのも事実である。9万人以上もの死傷者を出した関東大震災(大正12年(1923)9月1日)で都市型災害の被害に人々は驚き,翌年市街地建築物法(大正8年制定)が改正されて,建物をそれまで佐野利器博士が提案してきた震度法(設計震度,水平震度0.1)で検討することとなった。それ以後,福井地震(昭和23年)でも都市直下型で被害が大きく,昭和25年(1950)建築基準法が制定となり,建築にとって大きな影響となった。この基準法では,応力に長期と短期という概念を導入し,許容応力度を二本化し水平震度0.2が採用された。その後これが耐震基準と呼ばれるようになった。新潟地震(昭和39年)では砂質地盤の液状化現象が問題となり,十勝沖地震(昭和43年)が発生して被害状況が明らかになってくるとRC造の柱の剪断破壊が大きく,帯筋の強化へと(30cmが10~15cmに)改正された(図1)。その後宮城沖地震(昭和53年(1978)6月12日)という大きな地震に見舞われて,S造の接合部の破断,ブロック塀の倒壊,ガラスの破損,エレベータの事故,傾斜地・軟弱地盤の被害,バランスの悪い建物の被害が大きく,その設計震度0.2でも立ちゆかなくなった(図2)。そこで,それまで超高層で発展してきた動的耐震設計法を取り入れ新耐震設計法が世に出ることとなり,層間変形角,剛性率と偏心率が設けられ,柱の帯筋比(0.2%)が新設され,31mを超える建物には保有水平耐力の確認が必要となり,地震力では地震層剪断力係数で計算することとなり,風圧力も16mを超えるものには120×4√hを採用することになった。さらに兵庫県南部地震(阪神大震災)(平成7年(1995)1月17日)でも都市直下型で災害の酷さを痛感したのである(図2)。これがきっかけで建築基準法はさらなる大改正へと進んでいった。結果として構造関係では,限界耐力計算で地震や風,雪の各荷重に対する安全性を検証することとなった。損傷限界と安全限界の2つの状態に対する検証を行うことになっている。ほかに性能規定化というのがメインとなっている。平成15年1月1日天空率という考え方が導入され,7月1日からはシックハウス対策が強化された。また,新しく,住宅の品質確保の促進等に関する法律が制定され,建設リサイクル法や産業廃棄物法などが制定された。

4.火災と消防法

 地震,火災,津波は切っても切れない関係にある。消防法公布が福井地震のあった昭和23年(1948)で,建築基準法の2年前であった。消防法については,建築基準法と若干体系が違うこともあり,法そのものの改正で大きな変更は見られていないが,その分法令や規則そして火災予防条例で大幅な変更が建築より多く火災の度に変更されてきた経緯がある。

 その中でも大洋デパート火災は問題が多く,防火管理上の問題で避難窓が閉鎖されていたこと,防火シャッターの不動作,消防設備の不備があって,その結果昭和49年6月10日に消防法が大々的に改正され,防火管理業務に対する処置命令と特定防火対象物の遡及適用が改正された(図2)。

 その後の今町会館スナック火災では消防法施行令が改正され消火設備の設置基準が強化された。

 川治プリンスホテル火災では,3回にわたる増改築で階段や廊下が迷路のようになっており,出火時に避難誘導がなされなかったことと,屋内消火栓設備が使用できなかったことが被害を大きくしたことから,ここでも消防法施行令が改正され「防火基準適合表示制度」(通称:マル適制度)が発足した(図2)。

 ホテルニュージャパン火災では,構造的に間仕切り壁の下地不燃が問題となり,人を迷わすような平面計画の恐ろしさを示したものとなった。ここでは消防法令の防火設備に改正があり,甲種と乙種に分かれることとなった。最近裁判も決着がつき,跡地も長い間放置されていたがやっと高層ビル「プルデンシャルタワー」(38階)が竣工した(図3)。

 特別養護老人ホーム松寿園火災では,17人もの死者を出し,自力で避難が困難な災害弱者を収容する施設では,火を出さないこと,火を出したら完全に消し止める設備が必要であることがわかった。ここでも消防法施行令が改正され,社会福祉施設等のスプリンクラー設備などの消火設備の設置基準が強化された(図3)。

5.建築基準法改正の要点

 本文の中では,なかなか建築基準法の改正の具体的内容について記述できなかったので,以下にその内容を載せる。最後の表と見比べながら見ていただけるとわかりやすいかと思う(図4)(図5)(図6)。

6.地震の豆知識

 そのほかには,地震についての基本的な事項の記述がないので,ここに若干だが載せる。

 マグニチュードは震源における地震のエネルギーの大きさを表す値で,その震源地での値であり,その地震の動きが一秒間にどれだけ変位したかという速度を表すのがカインで,1kine=1cm/secとなる。その速度が毎秒1cm(1カイン)ずつ早くなる加速度状態をガルといい,1Gal=1cm/sec2で表す。

 例えば兵庫県南部地震では,最大秒速92cmの変位で92カインが観測され加速度は818ガルであった。ちなみに重力加速度1G=980ガルである。そのほかに気象庁の発表する震度階というのがあり,馴染み深いのではないかと思う。1908年当時の中央気象台が震度0から震度Ⅵまでの7段階を定め,1948年の福井地震で震度Ⅶの激震が追加されたが,ずっと人間的な尺度であった。1995年の兵庫県南部地震でⅤとⅥが弱と強に二分され10段階となり,計器による自動決定方式となり昔とは尺度が変わった。そこで昔と今とでは若干の違いがみられる。そこにマグニチュードを表す値が7とか8という震度階と似た数値で表されているので勘違いしやすいのであるが,マグニチュードは対数で表されており,対数表を思い浮かべてもらうとわかるが,ある地点から急上昇するカーブを描く。マグニチュードが1大きくなると最大振幅が10倍になり,エネルギーは約30倍近くになる。だから急カーブの近くの7.2と7.8では,5.2と5.8の差ではないくらいものすごい違いであるということである。地震の動きが振動となって地表に届くが,それを地震波と呼び2通りある。1つは波の進む方向と平行な縦波で1番目(Primary)にやってくるのでP波といい,粗密波とも呼ばれている。2つ目は波に垂直な横波で2番目(Secondary)に到着するのでS波,または捩れ波と呼ばれている。地表付近ではP波速度が5km/sec前後,S波速度は3km/secでこれでも時速に直すと約10,000km/hということになり,ジェット機よりも速い速度である。地震動の性質として振動・振幅の話が出てくるとなおさらややこしくなるので今回はここでとどめておく。

7.耐震診断と耐震改修

 それから耐震診断・耐震改修の話になるが,「建築物の耐震改修の促進に関する法律」が1995年に施行されてもいまだなかなか進まないのが現状である。改修等を行って,万が一壊れたときの補償がないなど,公的支援の問題や人々の危機管理意識の薄さが問題である。しかしながら,宮城沖地震の発生確率がまた一段と高くなってきて,一部の報道では20年以内では88%と言われており,宮城県が行った耐震改修の申込に4000件もの応募があり,定数をオーバーする状態であるのは喜ばしいことである。このように宮城県ではある程度,宮城県沖地震の発生について,危機意識が徐々にではあるが高まり,防災対策が叫ばれ,さまざまなところからその対策用品としてパンフレットが出ている。一例をここに示すので皆さんも参考にされて,いつくるかわからない地震に備えて準備しておこうではないか。

 このほかにも,非常用の靴,着替え,タオル,ちり紙,サランラップと紙コップ・紙皿があると水がないとき皿を洗わずにすみ便利である。また,できるならヘルメットや救助用に大型バールなどがあると便利だ。

8.まとめ

 下の表は今回の調査をふまえて,建築基準法の法改正の状況をEXCELデータとして整理したものである。表にはないが平成10年から平成15年にかけて大幅な改正があり性能規定化され,天空率が制定されるなど日々改正されている。人間にとって不可欠な「衣・食・住」の中の住を,建築法規をもとに精いっぱい努力をして支えてきたことがわかる。兵庫県南部地震(阪神大震災)での死者は9割近くが古い木造住宅の倒壊による圧死で即死状態だったということである。そのうえ二次災害として火災があり,このように建築にとって地震と火災は切っても切れない重要なファクターとして,過去から現在も影響を及ぼしながら,人の生命を守るべく法改正され続けてきたことがわかった。今後高い確率で地震の発生が宮城沖や東海沖で予想されている。そこで地震に関して特に人命第一の観点から,危機管理のリスク対応行動として耐震診断や耐震改修などは是非とも進めていかなければならない。建築関係者の努力に期待したい。

 ちなみに『建築防火(fire protection of building)』とは,広義では「建築火災から人命および財産を守ること」,狭義では「耐火構造や防火構造で避難ルートや防火区画を構成して火災被害を低減すること」。建築基準法はそれを受けて「火災の拡大および倒壊の防止と在館者の避難安全を図ることを目的とする。」であり,消防法では,「火災の予防,感知通報,初期消火,避難誘導,防火管理,消火・救助活動を的確に実施して人命と財産を守ることが目的」とされている。

<参考文献>

1)鹿島都市防災研究会編:「都市・建築防災シリーズ1~5」,鹿島出版会.

2)島村英紀:「地震がよくわかる」,彰国社.

3)島村英紀:「地震は妖怪騙された学者たち」,講談社.

4)大崎順彦:「地震と建築」,岩波新書.

5)伊藤和明:「地震と噴火の日本史」,岩波新書.

6)萩原尊禮:「地震予知と災害」,丸善株式会社.

7)片山恒雄:「東京大地震は必ず起きる」,文春新書.

8)西澤英和:「地震とマンション」,ちくま新書.

*1)河北新報インターネット版

         http://www.kahoku.co.jp/

*2)仙台市消防局発行パンフレット