海外技術協力

マレイシア短期専門家の技術移転について

About Malaysian short-term expert,s technology transfer

ポリテクカレッジ横浜港   物流情報科

(港湾職業能力開発短期大学校横浜校)

波多江 茂樹

1.はじめに

 短期専門家として平成15年8月31日から9月28日までの29日間,マレイシアのJMTI(日本・マレイシア技術学院)で技術移転を行ってきた。本報告では,派遣されたマレイシアへの技術協力の背景,JMTIについて,技術移転の項目,技術移転の方法,技術移転の成果について報告する。

2.技術協力の背景

 マレイシア政府は同国の経済成長に大きな影響を与えている日系企業のニーズに応えるため,先端分野の技術を習得した高度技術者を養成するJapan-Malaysia Technical Institute(以下JMTI)を設立し,要請によりわが国は,1998年1月15日から5ヵ年の技術協力を開始した。

 2002年7月には終了時評価調査団を派遣し,プロジェクト活動の確認,評価5項目(妥当性,有効性,効率性,インパクト,自立発展性)の視点からのプロジェクト分析を実施した。その際マレイシア側からの調査団に対して,産業界の技術革新に対応するために必要な指導員の訓練能力の向上を目的として,1年間のフォローアップ協力要請がなされた。

3.JMTIについて

3.1 JMTIの設置コース

 JMTIでは,高校卒業者等を対象に3年間の訓練(1年1400時間)を実施している。設置されている学科は電子技術工学科(工業電子技術専攻,通信技術専攻),情報技術工学科(コンピュータ技術専攻,情報処理技術専攻),生産技術工学科(高度生産技術専攻,高度材料処理技術専攻),メカトロニクス技術工学科(自動ロボット技術専攻,高度メンテナンス技術専攻)の4学科である。なお各科の定員は50名である。

3.2 JMTIの位置および入校・修了状況

 JMTIは,ペナン州半島側地域のブキット・ミニャック工業団地内に2000年1月に設置された。これに先立ち,スランゴール州シャーアラムのCIAST構内の仮キャンパスにおいて,電子技術および情報技術の両学科に1998年7月に第一期生を受け入れ,1999年7月から4学科全科に学生を受け入れ,訓練を行っている。JMTIの修了月は6月で修了生(累積)110名である。図1にJMTIの全体図を示す。

4.短期専門家派遣の目的

 JMTIの指導員の技術向上のため,PICによる電子制御ロボット製作技術に関する技術移転を行うことを目的としている。具体的な活動内容を以下に示す。

 ・PICマイコンの概要

 ・PICを用いたソフトウェアの開発技術(アセンブラ言語,C言語)

 ・PICによるモータの制御技術(ON・OFF制御とPWM制御)

 ・PICによる通信技術(ハイパーターミナルによるパソコンとPICのRS232Cによる通信)

 ・PIC回路の製作

 ・クライミング・ロボットの機構とその制御およびプログラミングに関する技術指導

5.活動実施計画

 実施に当たっては次の事項を念頭において計画を作成した。

 ・指導員の日常業務と技術移転のバランスを考慮すること

 ・OJT形式で技術移転が実施できること

 ・実践力応用能力の指導に重点を置くこと

 作成した実施計画表を表1に示す。

6.技術移転の実施

 技術移転は,日本から携行機材として持参したPICトレーニングキットを中心にして,電子技術工学科およびメカトロニクス技術工学科の指導員4名(表2参照)に対して行った。PICの技術移転は表1に示すように,月曜日から金曜日までの午前中に行い,授業の中での疑問点等の質問は午後に受けることにした。

 授業は日本語で書かれたテキストの必要な部分を英語に翻訳したプリント配付,および板書しながら行った(図2図3参照)。

 携行機材と以下に示すものを持って行った。

 (1)PICトレーニングキット,(2)PIC用C言語コンパイラ,(3)各種PIC,(4)ロボット製作に必要な電子部品,(5)参考資料およびデータシート

 今回の技術移転のもう1つの柱はロボット大会のクライミングロボット部門に出場するロボットの製作である。このロボットの製作は電子技術工学科の指導員が学生を指導して行う予定であった。われわれ短期専門家の役割はロボットの設計・製作に不慣れであった指導員にアドバイスを与え,より良いロボットを作ることであった。しかし,時間的な制約等の理由により,われわれ短期専門家が直接学生を指導してロボットを完成させた。

 ロボット大会において,完成したロボットを調整する時間がなかったにもかかわらず,われわれが指導した学生チームが優勝した(図4~図7)。

7.技術移転の評価

 技術移転活動に当たっては,派遣2ヵ月前より頻繁に,電子メールにより日本側のプロジェクトリーダと直接連絡することによって情報の共有化に努力した。その結果,供与機材,スケジュールの作成をスムーズに行うことができた。また業務に当たっては,日本人専門家およびJMTI側のスタッフの協力を常に得ることができたことを非常に感謝している。

 前任の短期専門家とともにクライミングロボットの製作に携わったが,ロボット設計の一連の流れすなわち,ロボットの概念設計-ロボットの設計・製作-電子回路の設計・製作-最終調整-テスト運転を日程的な余裕をもって実施できなかった。ロボット製作には,以前の短期専門家も報告書で述べているように,総合的な知識と実践的な能力が必要とされる。しかし,前回のロボット製作の経験をうまく生かしきれず,今回も大会当日まで満足できる仕上がりにはならなかった。今回製作したロボットはクライミングロボットである。学生たちは,ものづくりの厳しさ,時間管理の重要性が痛感できたと思われる。最終的に調整不足ながらロボット大会に出場し,クライミングロボット部門で優勝した。

 PICについては,PICの概要説明(PICと他のマイクロコンピュータとの相違やPICのハードウェア構成等),アセンブラ言語(35種類)のコマンドの内容説明や例題プログラムの説明・実行や課題実習を時間をかけて行った。受講した指導員たちは,使用したテキストの内容の60%近く理解できたと考えられる。しかし,使用したテキストが日本語で書かれているため,英語に翻訳した資料を配布したり口頭で翻訳して説明ならびに実習を行ったが,かなり理解に苦しんだようである。

 PICのC言語に関しては,指導員たちがC言語をあまり得意としていなかったために,用意した例題の説明および簡単なC言語の解説を行ったのみである。時間的な余裕があればPIC用のC言語のコンパイラ(CCS-C)の関数説明や課題実習が行えたと思われる。

8.おわりに

 ロボット製作におけるJMTIの指導員の責任の所在がはっきりしない。すなわち,ロボット製作の責任者が明確でないため,実際にロボットを製作している学生たちに適切な指示を出しにくい状況であった。さらに,JMTIの指導員たちのリーダーシップ力,ものづくりに対する取り組み方(新しいものを製作するときに必要な創造性,製作時間の見積もり等の時間管理)についても不十分であると感じられた。しかし,このようなJMTIの指導員に対する不満はあったが,学生たちの頑張りによりロボット大会に出場し,なおかつ優勝できたことは喜ばしいことである。

 JMTIの指導員は,ロボット製作のような,ものづくりに熱心な学生に対する対応の仕方ならびに指導方法を学んでほしいと思う。

 PICの授業に関しては,JMTIの指導員は積極的に参加し,新しい技術の習得および自分が知っている知識の再確認を行っていた。PICの授業は基礎から応用まで幅広く教えようと考えていたが,テキストで使用した言語の問題でなかなか思うように進まなかった。しかし,これは,技術移転の最終日に開かれたお別れパーティで確認したことであるが,授業で教えたことは,十分にJMTIの指導員に伝わり,技術を習得してくれたと思う。この技術移転で十分には行えなかったPICの応用に関しては,授業で教えた内容を思い出し,自分なりに工夫してマスターしてほしいと考える。

 今までの技術移転は新しい技術を教えることであった。JMTIが自立していくためには,カウンターパート自身で教材を開発できなければならない。そのため,今後の技術移転は,カウンターパートに教材開発力を身に付けさせるような取り組みが必要である。

<参考文献>

1)JMTIのホームページ

  http://homepage3.nifty.com/jmti/

2)ロボット大会のホームページ

  http://www.robofest.org.my/climbing_rules.html

3)小川晃:「FIRST PICkガイドブック V3」,マイクロアプリケーションラボラトリー,2003.

4)米田完 ほか:「はじめてのロボット創造設計」,講談社,2001.