企業訪問記

「小林工業株式会社」を訪ねて

東北ポリテクカレッジ

(東北職業能力開発大学校)

早川 明徳

1.はじめに

 私たちはほぼ毎日のようにスプーン,フォークなどの洋食器を利用しています。また,世界に目を向けると,約15億人もの人々が洋食器を使って食事をしています。このように広く使われている洋食器の産地として,新潟県燕市が世界的に知られています。今回は,燕市で洋食器の製造を行っている小林工業株式会社を訪問し,洋食器がどのように生産されているのかを見学するとともに,代表取締役副社長の石川博彰氏より,洋食器に関するさまざまなことを教えていただきました。

2.洋食器生産の移り変わり

 燕市での金物製品の歴史は古く,今から350年ほど前から,農業の副業として和釘,やすり,鋤,鍬などの生産を始めました。第一次世界大戦のころ,ヨーロッパの国々は軍需産業を増強したため洋食器の生産量が減少し,その生産国を求めていたところ,大阪の商人が日本での生産を提案し,燕でそれまで培ってきた金物生産技術を生かした洋食器産業が生まれました。

 燕市で生産された洋食器は世界各国で認められ,昭和30年代前半から約15年間は世界の洋食器の60%を燕市で生産するほどになりました。その後,人件費の高騰によるコスト高などから,日本での洋食器の生産は年々減少し続けてはいるものの,日本国内で生産される洋食器の90%が燕市で生産されており,洋食器の街としての地位を守り続けています。

3.会社概要

 小林工業株式会社は,明治元年に新潟県燕市で創業しました。当時は矢立てや灰ならしといった家庭用金属製品の生産を行い,大正初期から洋食器の生産を開始しました。「量産化と高品質への意欲」を基本理念とし,堅牢なクロムメッキの開発や,洋白(ニッケルと銅の合金)製の洋食器の開発などを行ってきました。戦後になって,当時はまだ一般的でなかったステンレスに着目し,ステンレス洋食器の開発に成功し,その生産を軌道に乗せました。

 オリジナルデザインと,「ラッキーウッド」というメーカーブランドを大切にしながら,現在もステンレス製品や銀器,チタン製品など,技術を集めた幅広いものづくりを行っています。

4.洋食器ができるまで

4.1 スプーン,フォークの製造工程

 スプーンやフォークを製造する工場に入ると,そこにはロールされた18-8ステンレス,18-10ステンレス,18-12ステンレスなどのステンレス鋼板が置かれています。スプーンなどの柄の裏を見ると,その材質が書かれています。「stainless steel」と表示されているものは,比較的安価なステンレスで作られたもので,扱い方によって錆が生じることがあります。「18-8 stainless steel」と表示されたものは,鉄に18%のクロムと8%のニッケルが加えられたステンレスで,ほとんど錆びることはありません。ニッケルの含有量が多くなるにつれて耐食性は向上し,さらに「かなけ」と呼ばれる金属特有の臭いも少なくなり,洋食器としての価値は高くなります。

 大きなスプーンを作る場合,まず始めに,鋼板をおよそ幅2cm,長さ20cmの短冊状の板に打ち抜きます。その後,プレス加工によってその板の先端を平たく引き伸ばし,柄の部分の模様をつけ,先端を丸く打ち抜いてから「つぼ」と呼ばれるくぼみをつけると,私たちがよく目にするスプーンの形になります。

 次に研磨工程に移ります。プレス加工しただけの光沢のない表面を研磨材で研磨することにより,表面に光沢が生じます。表側や裏側の研磨は勿論のこと,さらに側面や,高級なフォークの場合は歯と歯の間までも充分に研磨されます。

 最後に,出来上がった製品1つ1つの外観検査を行います。たとえ小さな傷であっても,傷の付いているものは不良品となります。この検査基準はとても厳しいもので,安く販売されている外国製のスプーンを同じ基準で検査すると,そのうちの約30%が不良品になってしまうほどです。

 4.2 デザートナイフの製造工程

 食材をカットするためのナイフには,切れ味を保つための硬さと,刃先が欠けたり折れたりしないためのしなやかさ,という相反する特性を持たせなければなりません。そのため,スプーンのようなプレスによる製造工程に加えて,ナイフの製造には焼入れの工程が増えます。ナイフの材質には,焼入れすることが可能な13クロムステンレスを用います。 ナイフの製造は,まず,13クロムステンレスの鋼板を1000度近くまで加熱し,ナイフの形状に打ち抜きます。打ち抜いた材料は,スプーンと同じように,柄の部分,刃先の部分をそれぞれプレス加工によって形作っていきます。次に焼入れの工程に移ります。ナイフを1000度近くまで加熱したのち,油に入れて急令して硬さを付け,次に,200度近くまで加熱し空気中でゆっくりと冷まします。このようにして,硬さとしなやかさの両方を兼ね備えたナイフは,研磨工程,検査工程を経て,私たちの手元に届けられます。

5.これからの洋食器産業

 日本国内での洋食器産業が減少傾向にある中,今回訪問した小林工業は,製品の付加価値を高めることで生き残りをかけています。高い技術力を使って,その素材や機能,デザインに工夫を凝らした価値の高い製品を開発してはいるものの,技術だけでは企業としての利益は得られないのが現実のようでした。今回の見学の最後に,石川氏のおっしゃった「工場になるか工房になるか」との言葉が印象的でした。

 高度な技能や技術によって付加された価値も,利用する私たちがそれらの価値を認識することができなければ,結局は無駄なものになってしまいます。これからの私たちに必要なものは,洋食器に限らず,このような価値を見極める目を持つことではないでしょうか。