職業能力開発技術誌 技能と技術 Vol.49 2014年1号 通巻第275号
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-1-この人のことばこのの人ことば1.ものづくりの伝承 海外で開催された国際会議に学生を5人ほど連れて発表に行ったとき,多くの友人からうらやましがられた。そして,このような材料関連の国際会議に若い人が参加してくれるのは頼もしいと喜んでもくれた。 アメリカの友人などは,「わが国の学生は,ものづくりには興味がなく,あわよくばウォール街で一攫千金を夢見ている。日本では,若い人が実業に関心を持っているのに驚いた。日本の工業力の一端がうかがえた」とまで言ってくれた。 日本には,ものづくりを大切にするという心が残っており,それは若い人たちにも受け継がれている。これは,日本が世界に誇るべき伝統である。 もともと,日本にはものを大切にするという精神があり,ものづくりに対する畏敬の念があった。神道では,もの(人工物)であったとしても,長年使い続ければ,そこに神が宿るという「つくも神」という考えがある。そして,長く使い続けることができる「もの」と,それをつくった「ものづくり」技術者に対する尊敬の念があったのである。 この精神は,江戸時代の世界に類をみないリサイクル技術となって結実している。江戸の街にはゴミがほとんどなかったといわれる。それは,長年培った知恵と工夫によって,すべてのものが無駄に捨てられることなく,有効利用されていたからである。 また,ものづくりにおいても,古くなった部品をリサイクルして再利用するという観点から初期設計がなされていたことも見逃してはならない。 もちろん,このような歴史的背景だけではなく,資源のない日本が世界で優位性を維持するためには,創造力にあふれた「ものづくり」技術の開発と,それを担う人材育成が重要であることは論を待たない。2.バブルの蹉跌 日本では,バブル崩壊後の経済の低迷期を,失われた20年と称し,あたかも,日本が世界に大きく遅れをとったようにいわれている。かつては,日本の国内総生産(GDP: Gross Domestic Product) が,アメリカについで世界第2位となり,いずれアメリカを抜いてトップになるだろうとだれもが予想していた。当時,日本は“rising sun”と呼ばれていたが,その時代を知る人たちからは,日本が中国に抜かれて第3位に転落したことを悲観的にとらえるむきも多い。しかし,別の視点でみれば,まだ世界第3位であり,ドイツ,フランス,韓国よりも上位にある。 さらに,中国の人口は13億人を優に超している。日本は1億人である。1人当たりのGDPは,日本のほうが中国よりもはるかに上なのである。 バブル時代に,経済評論家たちが「ものづくりは後進国に任せて,日本のような先進国は,金融で金を稼ぐべきだ」という主張を繰り返した。ものづくりは,どこでもできるので高賃金の日本では,いずれ立ち行かなくなるという主張である。 このような甘言に惑わされて,多くの企業がマネーゲームに走った。製造業にあっても,金融担当の役員が出世し,地道にものづくりをしている現場ものづくりの心芝浦工業大学 学長村上 雅人

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