職業能力開発技術誌 技能と技術 Vol.49 2014年1号 通巻第275号
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-3-この人のことばよ,大志をいだけ。ただし,金銭や利己的な栄達を満たすための大志であってはならない。自分の名声を得るためだけの空疎な大志であってもならない。大志とは,人間としてあるべき姿を希求することである」同感である。単なる金儲けは野心でしかないのである。5.日本の工業力 ものづくりの喜びは,自分で体を動かして,社会のために役だつものをつくる(創る,作る,造る)ことにある。たとえ,それが小さな部品であっても,自動車などの工業製品に利用されれば,立派な社会貢献である。過酷な温度変化や外乱に耐える製品を開発できれば,安心安全につながる。つくる際の工夫によって,効率が上がれば,省エネルギーにもつながる。 ものづくりの大切さは,ここにある。たとえ,儲けが少なくとも,社会のため,人のために自分の仕事が役だっているということがわかれば,心が充実するし,豊かになる。 日本の高度経済成長は,ものづくりの心を持った中小企業によって支えられていた。もちろん,大企業の存在も大きいが,それを下から支えていたのが,いわゆる,町工場と呼ばれる技術者集団であった。彼らは,下請けという地位に甘んじながら,親会社からの過酷な要求に対しても,創意工夫によって対処してきたのである。 軽くて強いバネが欲しい。過酷な温度環境でも緩むことのないネジが欲しい。それもコスト増を招かずに開発してほしい。こんな無理難題に応えてきた。彼らは,その仕事によって大きな利益を得ていたわけではない。しかし,その仕事が国家の発展に寄与するという使命感を持っていたのである。バブル崩壊後には,これら下請けに無理強いするかたちで,自らを延命してきた企業が多いが,このような過酷な経済環境の中でも生き残った中小企業には,日本の誇るべき技術が蓄積されている。それが日本の財産なのである。 ところで,ものづくりの効用はこれだけではない。孔子(Confucius)が残したといわれる次の言葉がある。What I hear I forget.What I see I remember.What I do I understand.「聞いただけでは忘れてしまう。見たものは覚えているかもしれない。自分でやってみて,はじめて理解できる。」 言い得て妙であろう。つまり,ものづくりは,教育現場において,強力かつ効果的な手法となるのである。日本にある大学にとっては,すぐそばに,このような技術者集団がいるということは心強いことであり,それを,大学教育に生かすべきなのである。 しかし,ものをつくっていれば,それで事足れりというわけにはいかない。後続が真似できる技術は,すぐに追いつかれてしまう。かつての日本もそうやって今の地位を築いたのであるが,今や,中国,韓国が先進国の模倣で躍進し,業種によっては,トップに躍り出ている。いずれ近い将来には,東南アジア諸国の躍進が始まるであろう。 それに対抗するためには,日本でしかできない(日本人にしかできない)「ものづくり技術」の開発が必要となる。そのような開発を進めなければ,台頭する後進国に対して日本は後塵を拝することになる。 ある中小企業の経営者から,こんな話を聞いた。「すでに確立された模倣可能な技術は,中国や東南アジアにコスト競争で負けてしまう。今は,製造工場をアジアに移し,現地の従業員を雇うことで国際競争力を得ているが,それでは,日本が空洞化する。ある程度体力が残っている今,日本ならではの「ものづくり技術」を開発していきたい」と。 このような見識のある経営者を積極的に応援していくことが,産官学の使命であろう。

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